患者さんへの言葉づかい。基本的には「敬語」が正しいとされていますが、一概にそうとは言い切れない面もあります。
例えば、子どもさんに敬語はかえって緊張させてしまう事もあるでしょうし、長年通って下さっている仲の良い患者さんには敬語ではよそよそしく感じられてしまうかもしれません。
つまり、相手によっては敬語が適切ではないこともあるということです。
言葉づかいの使い分けの判断基準の一つは「相手との関係性」です。
心理的な距離が近ければ近いほど、良い意味で言葉は崩れてくるもので、その崩れが相手によっては親近感や特別感を生むのも事実です。
たまに診療現場で患者さんとまるで友達のような言葉づかいで会話をされている場面を目にすることがありますが、患者さんの多くは、嬉しそうな表情をされているのがその象徴です。
では、仲の良い患者さんには常に敬語は使わなくても良いのか?というと、それは時と場所によります。
「相手との関係性」は目の前にいる患者さんだけを対象にしている訳ではないからです。
例えば、あなたと仲の良い患者さんであるAさんの隣のユニットに、今日初めて来院された新患のBさんが座っているとします。あなたがAさんと話している声はBさんにも聞こえてしまう距離です。
関係性が近いAさんとの言葉づかいは崩して話すことが適切ですが、あなたとBさんとの関係性は新患ということもあり、まだ近いものになっていません。
Aさんに馴れ馴れしく話すあなたの姿を見たBさんは「患者に対して友達のよような言葉づかいをするなんて、なんて常識のない医院なんだ」と不快感を与えてしまうかもしれません。
つまり、目の前の患者さん以外の目や耳がある院内においては、関係のできているAさんだけではなく、そうでないBさんとの関係性も考慮した言葉づかいをする必要があるということです。
Bさんにも聞こえてしまうのであれば、敬語が適した言葉づかいになりますし、それではAさんに違和感を与えてしまうのであれば、耳元で小さな声で話すか、場所を変えるかです。
これはスタッフ間の会話でも同様で、親友並みに仲の良いスタッフ同士の会話はつい、あだ名やタメ口となってしまうものです。
これも患者さんに聞こえてしまう場所であるならば、敬語で話す方が間違いありません。
言葉づかいが美しい人というのは、正しい敬語が使える以上に「その場面、相手によって適切な言葉を使い分けられる人」ではないかと個人的には考えています。
美しい敬語でも距離を感じる人もいますし、敬語間違いはあるけれど、なぜか親近感が生まれる人もいます。
その違いも一言で言えば「関係性」で「あなたといい関係が築きたいと思っていますよ」という土台があるかどうかです。
言葉づかいは目的ではなく手段の一つです。
患者さんと築きたい関係性を常に考え続けることが「美しい言葉づかいができる人」への道ではないでしょうか。