保険の目的

2020.05.02

「私は保険にも入れないんですか・・・」

とAさんはとても残念そうに呟かれました。

 

今から15年以上前の話です。

当時、生命保険会社の営業をしていた私は、Aさんに保険商品の提案を行っていました。

別のお客様からのご紹介ということもあり、保険に加入する、しない、の話ではなく、どの保険商品が自分に合っているか?と加入は既に前提になっていました。

 

それだけ “紹介の力” は大きいです。

私とは初対面であっても、既に “信用” がそこにあります。

それは私への信用でなく、紹介者への信用です。

信用する紹介者が紹介する人間であれば信用できる、という構造ですね。

 

とってもありがたいのですが、逆に言えば、失敗をすると紹介者の信用も損なってしまいますので、対応は本当に気をつけなければなりません。(たまに私も紹介を頼まれることがありますが、そこで失礼なことが起こると、二度と紹介はしません)

 

Aさんとの商談はサクサクと進み、Aさんのリスクに合った保険商品の目星もついてきました。

あとは契約手続きを済ますだけという段階で問題が起こりました。

 

ご存知の方も多いと思いますが、基本的に保険は健康な人でなければ加入することができません。

加入にあたっては所定の診査があり、過去5年以内の病歴などを告知する義務があります。

Aさんに病歴をおたずねすると、

 

「実は数年前に◯◯という病気をしまして・・・」

 

その病気は保険加入においては、加入そのものが出来ない難病でした。

 

「黙っておいてください」など言えるはずもなく(それをすると告知義務違反となり、最悪保険金の支払いを受けることができなくなる)、希望の保険商品を諦めてもらうしかありませんでした。

 

「私は保険にも入れないんですか・・・」

冒頭の言葉です。

 

言葉で言い表すことのできないほど、残念で仕方がない・・・という表情をされているAさんに対して、私は必死でかける言葉を探したことを覚えています。

それでも現実は変わりません。

 

そんな時、苦し紛れに出した言葉、それが、

 

「健康状態を問わずに加入することができる保険があるのはあります」

 

今もあるかもしれませんが、当時、診査を必要としない保険商品がありました。

ただ、掛金が割高でその支払いも終身払い(続けている以上支払い続ける)であり、長年続けていくと、どこかのタイミングで将来受け取れる保険金を支払う掛金が超えてしまうというものでした。

単純に言えば、早く死亡しなければ得にならない商品です。

 

いくら診査がないからと言って、それをオススメする訳にはいかない。

自分で言い出しておきながら、「これは損ですから止めたほうがいいです」と否定するという変な状態です。

 

「その商品はダメですね・・・」

という反応が当然のように返ってくるかと思っていましたが、Aさんの反応は違いました。

 

「いいですね!それにしましょう!」

え??

「いや、Aさん、ご説明しましたように、この商品は損する可能性の方が高いですから・・・」

 

「いいんです、それでも。それに入ります。」

 

どう考えてもそれは合理的ではありません。

あ、もしかしたら紹介者の顔を立てるために、そのように言われているのかも?

だとしたら、尚更止めないといけない。

 

「ほんと、お気遣いは無用ですから。」

「いえ、ほんとうに入りたいんです。お願いします。」

 

もはや、どちらが営業マンか分からない問答がしばし続いた後、Aさんは落ち着いた口調で

 

“本当の理由”

 

を言葉にされました。

 

「あのね、保険にも入れないって、なんか生きていることを否定されているような気がするんです。例え長生きして掛金を沢山払うことになっても、私が死んだあとに、家族に保険金が降りる訳ですよね。それでいいんです。それが大切なんです。損得じゃないんですよ。」

 

頭をガツンと殴られた感覚でした。

そして同時に恥ずかしくて仕方ありませんでした。

 

ライフプランナーという人生のサポートをするという大層な肩書を持ちながら、いつの間にか損得で保険提案を考えるようになっていた自分にです。

 

私の最大のミスは、目的と手段を間違えていたこと。

お金の損時が目的であれば、保険加入は手段としては適正ではありませんが、Aさんの場合、目的は自分の存在価値と家族への思いであり、保険加入は手段になり得ます。

 

目的が何か?で手段が変わってくる。

歯科の世界で言えば、その目的は口の中を見ただけでは分かりませんし、レントゲンにも写りません。

患者さんの言葉を聴かせていただくしかないのです。

 

そのための初診カウンセリングであり、関係づくりですが、多くの場合、初診カウンセリングでヒアリングしているのは “症状” であることが多いと現場でのサポート経験で感じています。

プロであれば、症状は口の中を見れば大体分かりますし、レントゲンにも写ります。

 

「目的が聴ける初診カウンセリング」

これが弊社クライアントの皆さまと目指している形です。

 

話はAさんに戻ります。

慎んで契約手続きをさせていただいた私は、その後、Aさんとはとても良いお付き合いをさせていただき、結果として何名もの新規のお客様もご紹介いただくことができました。

目的を共有することの大切さを改めて学んだことはもちろん、このAさんとの出会いがなければ、今のRensaも存在していないのは間違いありません。